国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 | 国立健康・栄養研究所 | 産官学連携研究センター |災害栄養情報研究室
災害時、避難所ではどのような衛生問題があるのか?
概要 災害時、避難所では、「ライフラインの途絶」、「同じ空間に多くの人が集まる」、「不慣れな環境での生活が長く続く」といったことから、感染症や食中毒などの衛生問題が起きやすい、とされています。避難所の衛生問題としてトイレの問題などが新聞やテレビ報道によって広く知られていますが、研究として解析された報告は多くありません。そこで、本研究では、東日本大震災後に日本栄養士会から被災地に派遣された管理栄養士・栄養士の活動報告書をもとに、避難所では具体的にどのような衛生問題があるのか明らかにしました。
研究方法 活動報告書内の衛生問題に関するキーワードを検索し、抽出されたテキストをKJ法により分類し、分析しました。
結果 KJ法により抽出された衛生問題は、以下の4つに分類されました。 1) 食料の問題 消費期限や賞味期限が切れた食品がある、期限切れの食品を廃棄した、という事例が多くありました。期限が切れた食品が提供された事例もありました。物資が大量に届いて消費しきれない、食品が山積みになっている、菓子パンが食べきれずに大量に余っている、といった物資の余剰も問題点として抽出されました。避難所の人数分に足りない、海外から届いた物資に日本語の説明書きがない、といった理由で避難者に配布できず在庫となってしまう事例もありました。また、おにぎりや牛乳、卵、野菜など冷蔵保存が望ましい食品が常温で保管されている、食品が腐っている、といった食品の保管状態の悪い事例も多くありました。 2) 調理環境の問題 調理室にハエが多く飛んでいる、ヒ素や大腸菌が検出された水で食器洗浄している、など不衛生な調理環境が問題として抽出されました。 3) 給排水環境の問題 下水道が使えないため、カップ麺などのスープを廃棄できず、全部飲むように指示されたという事例がありました。「私たちは人間バキュームーカー」と話す被災者の話に、人間らしい暮らしとは言えず胸がつまる、という支援栄養士の意見がありました。また、不衛生なトイレに行きたくない、トイレに行くと周りに迷惑になる、といった理由でなるべくトイレに行かなくて済むように水分摂取や食物摂取を控えているという事例もありました。 4) 居住空間の問題 衝立がなくプライバシーがない、ペットの悪臭、などの問題がありました。
図1 支援栄養士の活動報告書から抽出された衛生問題(数字は報告数)
この研究から考えられること 避難所で支援活動をした管理栄養士・栄養士の活動報告書から、食料、調理、給排水、居住に関する多くの衛生問題が抽出されました。期限が切れた食品や劣悪な保管状態、不衛生な調理環境によって、食中毒の発生が懸念される状況といえます。また、トイレに行きたくないために飲食を控える、排水できないためにカップ麺のスープを全部飲む、といったことから二次的健康被害が引き起こされかねない状況も明らかとなりました。これらの問題に対し、適切な対応を取ることのできるDHEATやJDA-DATなど公衆衛生の専門職がいち早く被災地に入り、能力を発揮することで改善に向けた取り組みが期待されます。
本研究の論文
上田咲子、金谷泰宏、奥村貴史、須藤紀子、原田萌香、下浦佳之、笠岡(坪山)宜代. 東日本大震災の避難所等における栄養士から見た衛生問題 ―食料の有効利用、食中毒の予防、給排水環境の改善に向けて―. Japanese Journal of Disaster Medicine. 2020;25(1):1-11.