メニューをスキップします

国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所

ホーム > 研究と活動 > 研究支援部 > 希少疾病用再生医療品等開発支援事業 > 【実績報告書】血友病性関節症に対する自己間葉系細胞移植治療の開発

【実績報告書】血友病性関節症に対する自己間葉系細胞移植治療の開発

平成29年05月31日

開発テーマ 血友病性関節症に対する自己間葉系細胞移植治療の開発
開発期間 平成26年~平成28年
開発代表者名 東京大学医科学研究所附属病院 講師 竹谷英之

1. 開発支援実績

(単位:千円)
年度 支援額 支出額
平成26年度 24,301 24,301
平成27年度 18,546 18,546
平成28年度 17,796 17,796
合計 60,643 60,643

2. 開発計画・進捗状況一覧(支援開始時より)

開発計画・進捗状況一覧

注:開発計画:点線、進捗状況:実線

3. 開発テーマの要旨、目的

血友病は先天性凝固異常症を示す希少疾患である。その疾患に特徴的な関節内出血による関節破壊(関節症)により、車椅子生活を余儀なくされている患児もいる。この関節症に対する整形外科的治療は限られており、さらにその治療が行える当院のような施設は国際的にも限られている。このような環境下で、血友病患者の関節症に対する新しい治療方法の開発は当院の責務と考え、自己間葉系幹細胞を低侵襲で関節内に移植する新しい治療方法の開発を目指している。

希少疾患である血友病に特徴的な血友病性関節症に対する有効な整形外科的治療が少ないため、新しい治療方法として、自己間葉系幹細胞を低侵襲で移植し軟骨再生医療の確立を目的としている。

血友病は日本における患者総数は約6000人、国際的には400,000人の患者がいると推定されている。止血に対する治療として欠損凝固因子の補充が行われており、さまざまな血液製剤が開発されている。また遺伝子解析がもっとも早く行われ、さらにベクターに搭載させやすい遺伝子サイズであったため、遺伝子治療研究がもっとも進んでいる疾患である。その一方で、血友病性関節症は幼少期から患者のQOLを低下させる血友病に特徴的症状であり、積極的な整形外科的治療を患者が望んでいるにもかかわらず、手術を行っている施設は国際的にも限られ、有効な治療方法も少ない。年間20件以上の血友病性関節症に対する継続した整形外科的治療を行っている当院において、多くの血友病患者が切望している新しい治療方法として、軟骨再生医療の開発と確立が責務であると固く信じている。

そこで多くの臨床研究で安全性が報告されている自己骨髄間葉系幹細胞に注目し、実際に3名の血友病患者の骨髄液を採取し、自己骨髄間葉系幹細胞が健常人と同等であることを確認した。自己骨髄間葉系幹細胞の移植方法は、より低侵襲な方法が血友病には望ましいと考え、一般動物モデルで研究が行われ、安全性や効果が報告されている関節内注入に注目し、これらを組み合わせた治療方法の開発と確立が具体的な臨床研究の目的である。

早期の血友病性関節症を低侵襲で修復することが期待できるこの方法の確立により、高額な血液製剤の使用量が、再生医療を行う際だけでなく、その後の治療においても減少させることができる。血友病治療費が公費でまかなわれている日本において、これにより大きな医療費削減となる。さらにこの治療方法の開発は、大きな国際的治療貢献になると信じている。

4. 支援期間に得られた成果

1) 自己骨髄間葉系幹細胞移植の安全性について

本研究着手までに、自己骨髄間葉系幹細胞移植を行ったヒト関節軟骨欠損41例45関節において、移植後5年から11年5ヶ月(平均6年3ヶ月)で、移植部位局所での腫瘍形成を含む有害事象はなく安全であることが確認されていた。

2) 間葉系幹細胞の関節内注入による移植方法について

血友病性関節症モデル動物が存在せず、この点についての基礎的実験結果は無いが、軟骨欠損モデル動物に対する間葉系細胞の関節内注入治療は、動物実験(ラット、ヤギ、ミニブタ)を用いて行われている。幹細胞の損傷部位への集積から新生軟骨を確認した報告まで、その効果にバラつきはあるが、少なくとも有害事象は見られず、この方法は問題ないと評価している。

3) 血友病患者の骨髄間葉系幹細胞の品質について

血友病患者3名から採取した骨髄細胞を20日間培養した結果、調整された骨髄間葉系幹細胞が軟骨細胞への分化能を有していることを確認した。投与予定の間葉系幹細胞とそれより一回多く継代した間葉系幹細胞の染色体検査を行ったが染色体異常は認められなかった。

4) 移植細胞の凍結処理について

PMDAの助言に基づき、凍結品を最終製品とし、製造工程を再構築した。凍害保護液2種について、解凍後洗浄液について4種について、生細胞率を基に検討した結果、凍害保護液としてStem-cellbanker、洗浄液として2%アルブミン含有ラクテックを使用した場合に、解凍後6時間までであれば生細胞率を90%以上維持できることが判明した。

5) 出血性関節症モデル動物の開発について

自然出血を起こす血友病モデル動物が存在しないため、血友病モデルマウスを用いて物理的に関節内出血を単回誘発し、出血性関節症モデルを作成した。

5. 今後の開発計画

血友病性関節症に対する低侵襲軟骨再生医療の安全性や移植技術を確立するために、成人血友病患者の膝関節を対象として臨床研究を開始する。当初培養自己間葉系幹細胞を直接関節内に投与することを考えていたが、細胞を凍結・解凍した後に関節内投与する形での臨床応用に変更し現在開発を行っている。このシステムが構築されれば、凍結長期保存と投与細胞数の増産ができるため、より低侵襲で今後の再投与にも対応できるようになると考えるからである。今回の臨床試験内ではないが、臍帯由来間葉系幹細胞が利用できるシステムを構築されれば、さらに低侵襲な治療方法になると考えている。

その他今回の再生医療対象患者(関節)は血友病成人患者の膝関節に限定しているが、膝関節での成果を踏まえて、血友病性関節症の好発関節である肘や足関節への適応拡大を将来の計画の一部として考えている。さらに血友病は先天性であるため小児に関節症が発生する危険性があり、対象年齢を小児に拡大することも将来的な検討課題と考えている。

6. 実用化・事業化の全体計画、課題

  • 最終製品形態を新鮮(非凍結)から凍結に変更したことによる非臨床試験のやり直し
  • 最終製品形態を新鮮(非凍結)から凍結に変更したことによる前臨床試験のやり直し
  • 研究の提携企業が現在確定しておらず、血友病製剤企業との話し合いを行っている
  • 知見や特許に関する知財が本研究において存在しないため、事業化計画に影響している。

一覧へ戻る

トップページ「新着情報」欄に表示する画像


研究成果 / イベント / 公募 / お知らせ のいずれかを入力してください。

お知らせ